副業でスマホやパソコンを使う人も増えています。副業の所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要になるため、所得や経費の管理を自分で行わなければなりません。
確定申告で複雑なのが経費の計上です。特に自宅で仕事をしている人にとって、どこまで経費として申告できるかは重要なポイントになります。
自宅で副業をする場合に経費にできるものとして、家賃や水道光熱費、通信費などの種類がありますが、通信費は使用用途が幅広いためより紛らわしくなっています。かかった経費をしっかり申告して節税対策を行うためにも、通信費を家事按分するための条件や経費にできるものの種類について確認しておきましょう。
目次
副業で経費にできる所得
「所得」には事業所得や不動産所得など、全部で10種類の所得がありますが、一般的にパートやアルバイトなどの給与所得ではない報酬制の副業収入の場合は「雑所得」となります。
基本的に副業を行う上でかかった費用は経費として計上することができ、経費にできる種類は様々なものがあります。
- 通信費
- 家賃
- 交通費
- ガソリン、車関係費
- 接待費・交際費
- 消耗品費
- 仕入れ費
- 水道光熱費
- 修繕費 など
交際費や消耗品費など全額を経費にできるものもありますが、家賃や光熱費、通信費やガソリン代などの私生活と共用しているものについては、その割合を算出して計上する必要があります。
副業にかかった通信費を家事按分するには?
家事按分とは、自宅で副業をしている場合に副業とプライベートで共用している光熱費や家賃、通信費などから、副業で使用している割合を算出し、副業分の経費のみを計上する方法です。
通信費を家事按分するには、副業とそれ以外のプライベートなどでどの程度利用しているか、割合を明確にする必要があります。
使用日数や使用時間で割合を算出できるので、副業の日数やかかっている時間などに合った方法で計算を行いましょう。
なお、副業の所得から副業にかかった経費を引いて年間所得が20万円に満たない場合は、基本的には確定申告を行う必要はありません。
使用時間で算出する
インターネット料金を例にして算出方法を解説していきましょう。
使用時間で計算する方法は、年間のインターネットの使用時間の中で、どのくらい副業に使用していたかの割合を算出するというものです。一般的に副業の場合はこちらの方法で算出する方がやりやすいかと思われます。
例えば、1日にインターネットを使用した5時間のうち副業でインターネットを使用した時間が3時間だったとします。1週間で考えると全体でのインターネット使用時間35時間、副業でインターネットを使用した時間が21時間です。その場合計算式は21÷35=約0.6となり、家事按分比率は60%となります。
年間のインターネット料金の合計が5万円だったとすると、60%を通信費として計上できるため、3万円が通信費となります。
年間でのインターネット料金と、1日ないし1週間でインターネットを使用した時間、そのうちの副業で使用した時間を明確にしておくことが大切です。
副業は本業の後や休みの日に行うことが多いため、日によってもばらつきや副業をしていない日なども出てくるかと思います。毎日副業をした時間を記録しておくと後々の処理が楽になりますよ。
使用日数で算出する
毎日常にインターネットを利用している場合は、使用日数で計算するのがやりやすいでしょう。
毎週6日間仕事を行っている場合は、6÷7=約0.8で比率が80%となります。年間5万円のインターネット料金のうち、80%分の4万円を通信費として計上できます。
年間のインターネット使用料金と1週間の中で仕事をしている日数を把握しておくと、家事按分しやすくなります。
通信費はどこまで経費にできる?
「通信費」とは、電話やネットを通して連絡や通信を行うための費用のことです。クライアントとの連絡や副業サイトへの通信を行うために必要なものですが、通信費と間違いやすい項目などもあり、仕訳をする時に紛らわしいと感じてしまうこともあります。
ここからは、通信費として経費にできる項目とできない項目や、通信費に間違いやすいものなどを解説します。
通信費として経費にできる項目
経費として計上できる通信費の項目は次のようなものが挙げられます。
- 固定電話・携帯電話料金
- インターネット・プロバイダ料金
- はがきや切手代
- 郵便の送料
- テレビの受信料 など
固定電話・携帯電話料金
仕事で必需品ともいえる電話の料金も「通信費」として計上できます。しかし、仕事以外にプライベートでも使用している場合は家事按分が必要です。
携帯電話を仕事でも使用している場合は、携帯電話の本体料金も使用割合に応じて家事按分することができます。ただし、スマホケースや充電器などは「消耗品費」となるため注意が必要です。
インターネット・プロバイダ料金
インターネットに関わる通信費の項目として、プロバイダ料金やサーバー利用などがあります。インターネット料金がプライベートと共用している場合は、かかっている費用を家事按分して副業に使った分の料金のみを計上します。
切手代
切手代には、はがきに貼る切手代金の他、速達料金や品物のない郵便送料などがあります。
通信費の消費税区分は「課税」ですが、切手は金券のため、本来は「非課税」であり、使用する時に経費になるという扱いとされています。ただし、日常的に切手を使用するためまとめて切手を買うことが多い場合は購入時に通信費として計上し、課税処理をすることが認められています。
切手を課税経費として計上した場合は、使用時に記帳しないようにしましょう。
テレビ受信料
テレビ受信料には、NHKやケーブルテレビなどの受信料が挙げられます。あくまでも副業で使用した分の料金に限られてるため、プライベートと共用している場合は注意しましょう。
経費にできない項目
通信費としてしまいがちな項目の中には、通信費として計上できない支出もあります。
- FAX用紙やコピー用紙
- はがきや便せん・印紙代
- 祝電やお悔みなどの電報
- 商品を郵送する送料
- 電話機、コピー機、パソコンなどの購入やリース
FAX用紙やコピー用紙
FAX用紙やコピー用紙など通信費として扱いがちですが、これらの費用は「消耗品費」の勘定科目となります。
はがきや便せん・印紙代
はがきには、切手があるものとないものとがあります。切手付きのはがきは通信費として計上できますが、切手なしのはがきの場合は「消耗品費」として扱われます。また、郵便物である便せんや封筒なども「消耗品費」として計上します。
領収書や契約書に貼ることが多い収入印紙は、切手と似ていますが税金や手数料として処理されるため「租税公課」という勘定項目となり、通信費には該当しません。
祝電やお悔みなどの電報関係
電話やネットを使用して行うことが多い祝電やお悔みなどの電報ですが、これらは送る相手先によって扱いが変わります。
送る相手が取引先の場合であれば「接待交際費」、同じ事業仲間などであれば「福利厚生費」となります。
電話機、コピー機、パソコンなどの購入やリース
電話機やコピー機、パソコンなどの購入またはリースの費用は、通信費ではなく「消耗品費」や「リース料」として扱われます。
目的や状況によって扱いが変わる項目もある
通信費として計上できる項目の中にも、目的や状況によって扱いが変わってくる項目もあります。
- 商品や宣伝目的ではない通常郵送時の送料は「通信費」
- 目的が宣伝や販売促進のためのチラシやパンフレットなどの郵送や送信送料は「広告宣伝費」
- 商品を郵送する場合にかかった費用や消耗品は「荷造運賃」
- お歳暮やギフト関係の郵送費用は「交際費」
送り先が同じでも、目的によってそれぞれ勘定科目が変わるため注意しましょう。
通信費を仕訳する時の注意点
上述したように、同じ通信費でも目的や状況によって別な勘定項目として扱われることがあるため混乱してしまいがちです。
ここからは通信費を仕訳する際の注意点について解説します。
「通信費」と「荷造運賃」の違いに注意
「荷造運賃」は、商品を発送するためにかかる費用のことをいいます。郵送のための送料や、本来は消耗品である段ボールやテープなども、荷物を送るために使った物であれば「荷造運賃」に含まれます。
また、上述したように送る目的や状況によっても仕訳方が異なるため気をつけましょう。
10万円以上の電話やパソコンなど通信機器の購入経費は「減価償却費」となる
10万円未満の通信機器を購入した場合は「消耗品費」として計上することができますが、購入金額が10万円以上になった場合は資産扱い=減価償却資産となります。
減価償却の場合は何年かにわたって使われるものとして、購入品の耐用年数に合わせて少しずつ経費処理が行われます。耐用年数は資産の種類に応じて決められており、確定申告では毎年決まった金額を経費として計上することになります。
経費として申告した資料については、確定申告から5年間は保管しておく必要があるため管理には気をつけましょう。
海外との通信は「免税」となる
通常の通信費は課税対象ですが、国際電話や国際郵便など、日本と海外との通信にかかる費用は「免税」となります。また、海外同士での通信の場合は「不課税」です。国際的なやりとりや商品の発送などを行っている人はそれぞれの消費税区分に注意しましょう。
区別が難しい場合は勘定科目で統一する方法も
通信費に間違いやすいものとして、「消耗品費」や「荷造運賃」といったものがあり、区別が難しいと感じることもあるかもしれません。
その場合は、一度付けた勘定科目でその後も統一さえしていれば問題はありません。大切なのは帳簿に一貫性を持たせるということです。
経費を家事按分で計上する時のポイント
自宅で副業を行う際はプライベートでも共用しているものが多く、副業での家事按分は複雑になりがちです。しかし、経費としてしっかりと申告することで節税対策にもつながります。
ここからは自宅で副業を行う際の経費を家事按分する際の大切なポイントについて解説していきます。
経費として計上できないものに注意
通信費以外にも、家賃や光熱費、ガソリンなど副業に使用しているものに関しては経費として計上することができますが、中には経費にできないものもあります。
たとえば、副業中の飲食代について。これは、取引相手との会食やお菓子代などは一部経費にすることができますが、休憩中などに飲食したものについては経費にはできません。
また、スーツなどの衣服代についても、プライベートでも着用すると想定されるため、経費にならない可能性があります。
副業はプライベートとの境界が曖昧になりがちなため紛らわしいですが、経費にできるものと経費にできないものをしっかりと区別するようにしましょう。
領収書やレシートなど証拠となるものを保管しておく
経費の計算や家事按分を行うためには、料金明細や領収書などが必要になります。また、確定申告や税務調査の際の根拠となるものでもあります。
副業で使うものを購入した際のレシートや月々の光熱費・通信費の料金明細などのデータはしっかりと保管しておき、記録として残しておくのが良いでしょう。
副業の場合はプライベートも含めた金額を支払っているのが一般的かと思われます。領収書に合計金額しか書いていないという場合でも、家事按分した基準や割合が合理的なものであれば大丈夫です。
経費の証拠資料の保管期間は?
経費計上を証明するためのレシートや領収書、請求書などの資料は、確定申告の際の青色申告と白色申告でそれぞれ異なります。
青色申告の場合は確定申告の翌日から7年間、白色申告の場合は5年間の保存が義務付けられています。ただし、青色申告であっても、請求書や見積書、納品書などは5年間の保存で良いとされています。
家事按分した際の比率をメモしておいたり、経費に該当するものには線を引いたりしておくなど、後々確認してもすぐ分かるような対策を行っておくのが安心です。
家事按分の目的や基準を明確にする
副業所得の確定申告は、自分自身で仕訳や計算をして行わなければなりません。家事按分の比率の仕方も自分自身で行なう必要があります。誰に確認されてもいいように、家事按分の基準を明確にしておきましょう。
また、経費を何のために使ったのかという目的も明確にしておく必要があります。経費の内容は全て把握しておき、正当性を主張できるような証拠を用意しておくようにしましょう。
基準や目的を明確にできないものについては計上しないというのもひとつの方法です。
社会保険料や生命保険料などは所得控除になる
所得控除とは、条件を満たすと所得の合計金額から一定額を差し引くことができる制度のことです。社会保険料や医療費、生命保険などは経費として計上することはできませんが、所得控除としての控除が可能です。
税務署によるチェックが入ることがある
上述したように、確定申告での経費の計上は自分自身で行わなければなりません。しかし、だからといって適当に申告して良いわけではなく、きちんとしたルールに則って行う必要があります。
確定申告の際に漏れがあったり、家事按分比率が合理的ではないと判断されたりした場合、税務署から修正申告をするように言われることや税務調査が入る可能性もあります。
税務調査が入った場合は申告した家事按分比率が適切であるかどうかや生活費まで計上していないかなどを調査され、意図的なものについては追徴課税などの罰則を受ける可能性もあるため注意しなければなりません。
青色申告を利用する
確定申告には「青色申告」と「白色申告」とがあります。白色申告が10万円までの控除しか受けられないのに対して、青色申告は最大65万円の控除が受けられます。
ただし、青色申告をするためには「事業所得」として認められなければなりません。副業の多くは基本的に「雑所得」とされていますが、2022年10月に国税庁より公開された『「所得税基本通達制度の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)』では、雑所得の範囲の判断基準が改正されました。
大きくは帳簿をつけているかどうかで判断基準が変わるというものですが、副業が事業所得と認められるには以下の条件も満たしている必要があります。
- 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業など、社会的に認知された職業を営んでいる
- ある程度の期間継続して安定した収入が得られている
- 営利目的であり、リスクを負っている
- 自分自身の判断で事業を運営している
- 本業と同等の時間を事業に費やしている
開業届を出して個人事業主になり、青色申告承認申請手続きを行うことで青色申告が利用できるようになります。
また、青色申告には、上述した青色申告控除の他にも様々な特典があります。
- 青色専業専従者給与
- 最大3年間は損失を繰り越せる
- 30万円までの固定資産を全額経費計上できる
- 貸倒引当金(金融債権のうち、将来的に回収することが困難だと思われる金額の見積もり)の計上
不動産所得がある人も青色申告が可能
不動産所得とは、アパートやマンション、駐車場などの不動産を賃貸として利用して収入を得るというものです。賃貸をする上で必要な部屋の修繕や管理費用、災害保険や固定資産税などは経費として計上できます。
不動産所得がある人も青色申告を利用することが可能です。ただし、青色申告で最大65万円の青色申告控除を受けることができるのは「事業規模の不動産所得がある人」に限られます。
事業規模の不動産所得は次のようなものになります。
- 賃貸可能戸数が5棟以上の戸建住居
- 賃貸可能な部屋数が10室以上のマンション・アパート
上記の規模に満たない場合、青色申告特別控除の額は最大10万円となります。
参考:国税庁ホームページ「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
青色申告の手続き
青色申告を始める際は、まず「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。青色申告承認申請書は原則として開業から2ヶ月以内の提出を義務付けられていますが、その年の1月1日から1月15日の間に開業した場合は、その年の3月15日までに提出します。
税務署にそのまま持ち込むこともできますが、郵送、e-TAXでも提出することが可能です。青色申告承認申請書は、税務署や国税庁のウェブサイトから無料で入手できます。
青色申告と白色申告の違い
確定申告の際は、申告方法が「青色申告」か「白色申告」かによって家事按分のルールが異なります。
青色申告は複式帳簿という複雑な簿記のためある程度の簿記の知識が必要になりますが、基本的には自分で割合を判断して家事按分した経費は認められることが多く、副業分の割合が少なかったとしても比率分の経費を計上することが可能です。
一方で白色申告は、生活費と副業で使用した割合を明確に区別できなければ家事按分として認められないこともあり、節税効果においては青色申告の方が有利です。副業の所得が「雑所得」の場合は白色申告で確定申告を行う必要があるため、副業にかかった費用を正確に把握できるようにしておきましょう。
青色申告と白色申告それぞれで帳簿のつけ方や家事按分の基準が異なるため注意が必要です。
まとめ
今回は、副業で使用する通信費の家事按分の条件や仕組みなどについて解説しました。
- 副業でかかった通信費も家事按分にできる
- 通信費をはじめ家賃や光熱費などプライベートと共用している費用については、家事按分して計上することが可能
- 経費として計上できる通信費には、電話料金やインターネット料金、切手や郵送料金などがある
- 通信費に間違いやすいものとして、FAX、コピー用紙や便せん、封筒などがあり、これらは「消耗品費」に分類される
- 切手を日常的に多く使っている場合はまとめて買った分を経費として計上できる
- はがきは切手付きの場合は通信費になるが、切手なしの場合は消耗品費扱いになる
- 祝電やお悔みなどの電報関係は、送り先によって勘定科目が異なる
- 収入印紙の勘定科目は「租税公課」となり、通信費には該当しない
- 10万円を超えるパソコンやコピー機などの通信機器の購入は「減価償却費」となる
- 目的や状況によって「荷造運賃」や「宣伝広告費」など、通信費との区別が紛らわしい勘定科目もあるため注意が必要
- 副業で出た支出の中にも、経費にできるものとできないものがあるため注意が必要
- 確定申告の際は、必要な経費を証明できるレシートや領収書などの資料を揃えておくと便利
- 副業の年間所得が20万円に満たない場合は確定申告を行う必要がない
- 適切な経費計上ではないと疑われた場合、税務調査が入ったり、追加徴税などの罰則を受けたりする可能性もある
- 「事業所得」を認められると確定申告で青色申告を利用でき、最大65万円までの青色申告控除を受けることができる
- 副業所得は基本的に「雑所得」となるため、白色申告で確定申告を行う必要がある
副業は仕事とプライベートの境目が曖昧になりがちなため、家事按分が複雑で紛らわしく感じてしまいますが、適切な経費の申告は節税につなげることができます。
本業の後の空いた時間を使って副業をしている人にとっては、確定申告は面倒や難しさを感じる人も多いでしょう。しかし、年間の副業所得が20万円以上の場合、確定申告をしなければ脱税という犯罪行為とみなされてしまう可能性もあります。
また、節税対策において、確定申告で正しく経費を計上することは大切です。通信費をはじめ、経費を家事按分する際は、基準を明確にして適切な経費計上を行うようにしましょう。