コロナ禍や物価高などの影響で、副業をしている人も増えてきています。副業をしている人の中には自宅で仕事をしているという場合も多いのではないでしょうか。
自宅で副業をする場合、プライベートと副業で共用している家賃も経費にすることが可能です。経費にできるものを知っておくことで、節税対策にもつなげることができます。
この記事では家賃を経費計上する方法をはじめ、自宅で副業をする場合に経費にできるものやできないもの、経費計上する際の注意点などを解説します。
副業を自宅で行う場合家賃は経費にできる?
副業で得られる収入には、アルバイトやパートなど企業に雇用されて給与として支払われるものと、業務委託や成功報酬の報酬として支払われるものとがあります。
雇用先から「給与」として受け取っている形の収入は「給与所得」に分類されます。交通費や研修費用など特別な支出でない限りは経費として認められませんが、その代わりに「給与所得控除」として必要とされる経費を一定額差し引くことができるという仕組みがあります。
業務委託や成功報酬といった形で収入を得ている場合、副業の多くでは「雑所得」に分類されます。「雑所得」は必要経費として計上できるため、自宅で副業を行う場合は家賃をはじめ、自宅で使用する光熱費や通信費なども経費とすることができます。
あくまでも家賃や光熱費などの費用は、自宅で仕事をしている部分のみが経費として認められるので、副業での経費を申請する際は注意する必要があるでしょう。
経費とは
経費とは、副業などの事業を行う中で必要な支出のことです。副業のための支出であれば基本的には経費として申告することができます。
経費が多くなるほど所得が少なくなるためその分節税対策にもつなげられます。経費として計上できるものがある場合は漏れなく申告しておきたいところです。
しかし、中には副業のための費用であっても認められない場合や、減価償却など何年かにわたって経費になるものなどもあります。経費計上の仕組みやそれぞれの経費の特徴を理解しておくことが大切です。
自宅で仕事をするための費用は経費にできる
自宅を職場として利用する場合は、家賃をはじめ光熱費や通信費などの一部を経費として計上することができます。
- 家賃
- 光熱費
- 通信費
- ガソリン代
- 消耗品代
- 書籍・雑誌代
- 仕入代
- 接待費用
- 自動車保険
家賃や光熱費、通信費など、プライベートと共用している費用は「家事関連費」と呼ばれています。家事関連費は全てを経費にできるわけではなく、副業での使用割合に応じた金額のみを経費にすることができます。
家事関連費の他、副業で使用する資料などを作成するための文房具や用紙代、取引相手に送付する時の郵便代金、打ち合わせのための交通費なども幅広く経費として計上することが可能です。副業で車を使用する場合、車の維持費や自動車保険料なども経費に計上することができます。
通信費の家事按分方法については、こちらの記事でも詳しく解説していますので参考にしてみてください。
経費にできないもの
副業をする中で使う費用の中には経費にできない項目もあります。
- プライベートでも使うもの
- 所得税・住民税
- 生命保険料や国民健康保険料、国民年金など
- スーツなどの衣服
- 食費
仕事の時のみ使用するための作業着や靴などについては経費として認められる可能性もありますが、基本的にスーツなどの衣服や靴・鞄などは、プライベートでも使用できるため基本的には経費にできません。
住民税や所得税も、事業とは関係なく納税が必要な税金となるため原則として経費にはできません。自動車税や印紙税など、事業に関わる範囲での税金のみ計上が認められています。
副業者の生命保険料や国民健康保険、国民年金も経費とすることはできません。ただし、生命保険においては生命保険控除として所得控除を受けることが可能です。
また、副業中の食費については、取引先との打ち合わせや接待などで提供したお菓子やコーヒー、軽食代は経費として認められますが、自宅で副業の合間の飲食代に関しては経費にできないので注意しましょう。
家賃や通信費等を経費にするためには家事按分が必要
上述のように、自宅を職場として利用する場合にかかる家賃や通信費、光熱費などの費用の一部は経費にできますが、私生活と共用しているため全てを経費にできるわけではありません。
自宅で仕事をする際の経費の求め方は、「家事按分」という方法で割合を計算します。
家事按分とは
家事按分とは、自宅を職場として仕事を行う場合に、総合的な費用から仕事で使用する割合を算出し、仕事分とプライベート分を分けて経費計上することをいいます。
家事按分はプライベートと仕事で共用しているものに適用されます。家賃の他、通信費や光熱費、駐車場代やガソリン代なども按分することが可能です。
副業とプライベート両方で使用するパソコンや車の購入費用なども家事按分できますが、10万円以上の物の場合は減価償却資産となるため、それぞれの資産に応じ何年かに分けて計上されるという仕組みになっています。
家賃の家事按分の仕方
副業での使用割合を算出するためには、副業で使用する割合と私生活で使用する割合を明確にするための基準が必要です。家賃や光熱費など、明確に区別するための基準を設けることが難しい場合は、副業で使用している日数や時間などから使用割合を求めるのが良いでしょう。
家賃を家事按分する場合は、自宅の中で仕事場となっている部屋の使用面積で算出するのが割合を求めやすいかと思います。家賃額のうち、副業と私生活それぞれの使用割合から、副業で使用している割合を算出します。
家事按分の計算式は以下を参考にしてください。
【月額家賃×副業での使用割合=経費】
例えば、総床面積が50㎡のアパートで、そのうち20㎡のスペースを副業に使っていたとします。20㎡を50㎡で割ると0.4となるため、家賃の40%を経費にできるということになります。家賃が8万円だったとすると、【8万円×40%=3.2万円】で3.2万円を経費にできるというわけです。
賃貸と持ち家の家事按分の違いは?
賃貸でも持ち家でも副業で使用した割合を経費にすることができますが、経費にできる項目はそれぞれ異なります。
賃貸住宅の場合
賃貸住宅の場合、家賃は家事按分して経費とすることができますが、敷金については経費とすることができません。敷金は賃貸契約の際、何かあった時のために貸主に対して支払うものですが、退去時に返金される可能性もあるからです。敷金と一緒に支払う礼金は経費として認められます。
持ち家の場合
持ち家の場合は固定資産税や減価償却費、火災や地震保険料などを経費にすることが可能です。ただし住宅ローンを支払っている場合、ローンの利息は経費にできますが住宅ローンの返済金額を経費にすることはできません。
マンションの場合であれば、管理費や共益費といった維持費などを経費として計上できます。
カフェやコワーキングスペースで副業する場合は?
自宅を中心に副業を行っている場合でも、時にはカフェやコワーキングスペースを使って副業をしているという人もいるのではないでしょうか。
カフェやコワーキングスペースを利用して副業を行う場合にも、状況に応じて使用した金額の一部を経費にすることができます。
カフェの場合、何も頼まずにスペースを使って作業を行うことはできないため、コーヒーなどの飲み物代がカフェの利用代となり、その分を経費計上することが可能です。飲み物と一緒にランチや軽食などを購入した場合は、食事代はプライベートとみなされ経費にはならないので注意しましょう。
ただし、仕事の打ち合わせや取材などで食事をする場合は食事することが仕事に関係しているため、「接待費」や「取材費」といった勘定項目で経費に計上できます。
コワーキングスペースは、フリーランスや在宅勤務の人など誰でも利用することができる共同型オフィスのことです。電源やWi-Fi環境が整っており、必要に応じて会議や打ち合わせなども行うことができます。また、月額制や従量制など働き方に応じて利用することができるため、賃貸オフィスに比べて費用も安く抑えられます。
副業目的でのコワーキングスペースの利用料や交通費なども、基本的に経費として計上することが可能です。
経費を計上する時の注意点
家賃などを経費として計上する場合には注意が必要な点がいくつかあります。
所得が20万円以下の確定申告不要には条件がある
副業などで本業以外にも収入がある場合、副業の年間所得が20万円以下であれば原則として確定申告が不要になります。所得は経費を含まないため、年間の収入が20万円以上だったとしても経費を差し引いて20万円以下におさえられれば確定申告しなくても良いことになります。
ただし、所得が20万円以下であれば必ずしも申告が不要となるわけではありません。本業である会社で年末調整を行っていない場合は、年間所得が20万円以下であっても確定申告が必要になります。また、本業とパートやアルバイトを掛け持ちしていて所得が「給与所得」となる場合や、兼業として複数の仕事を掛け持ちしている場合なども確定申告が必要です。
確定申告が不要な場合であっても住民税の申告は必須となるため気をつけましょう。住民税の詳しい申告方法などは、こちらの記事でも解説していますので合わせてご覧ください。
減価償却費に分類されるものに注意
減価償却とは、資産となるものの購入費用を、資産ごとの耐用年数に応じて分割して経費とする方法です。減価償却にできる資産は、事業用として使用している物で10万円以上の物に限られます。
10万円以上の物の購入費用に対して経費計上する際は、減価償却資産であるかどうかで経費の計上の仕方が異なるので注意しましょう。
家賃を経費にする場合は住宅ローン控除にも気をつける
住宅ローン控除とは、住宅を購入時に住宅ローンを利用する人に対して、一定の期間中税金を安くできるという制度です。物件などにもよりますが、基本的に入居してから10年間は住宅ローン残高に応じて所得税や住民税が控除されます。
自宅を事業用に使っている場合であっても住宅ローン控除は適用されますが、床面積の1/2以上が居住用であることが条件です。家賃の経費計上に加えて住宅ローン控除も受ける場合は、家賃の家事按分の割合や経費計上の仕方に注意しましょう。
副業に関する経費だと証明できるものを保管しておく
経費として申告するのであれば、その支出を証明できるものを用意しておきましょう。家賃を経費として申告するためには、証拠となる家賃の明細書や契約書、家事按分を証明するために自宅の間取り図などを用意しておくことが大切です。
経費として申告した書類は、確定申告後も最低5年間は保管しておかなければならないため気をつけましょう。
適切な申告を行わなければ税務調査が入る可能性もある
少しでも節税につなげるために、少しでも多くの金額を経費にしたいと思う人も多いでしょう。上記のように、経費を差し引いて所得が20万円を超えない場合は確定申告を行う必要もありません。
ただし、経費額が過剰である場合や、20万円を超える所得があるにもかかわらず無申告であった場合に対して税務署から疑われてしまえば、副業でも税務調査が入る可能性があります。
税務調査で適切な申告でないと判断された場合は、ペナルティとして追加徴税や重加算税などが課される可能性があります。所得がある場合は忘れずに申告を行うことはもちろんですが、経費においても適切な金額を計上するようにしましょう。
青色申告では雑所得を経費計上できない
確定申告には白色申告と青色申告の2種類がありますが、それぞれ経費にできる条件が異なります。一般的な副業の所得である「雑所得」は、青色申告では経費計上できないため注意しましょう。
青色申告と白色申告の違いや特徴について理解しておくことが大切です。
青色申告
青色申告の場合は、事業に必要な費用であれば経費として申告することができます。自宅で仕事を行っている場合でも、自分自身で家事按分した割合が認められやすいのが青色申告です。
青色申告には、最大で65万円の控除を受けられる「青色申告特別控除」を始めとするさまざまな特典がありますが、複式簿記という複雑な記帳方式となっています。
また、青色申告で経費にできるのは「事業所得」と「不動産所得」のみで、副業収入に多い「雑所得」は青色申告を行うことができないため注意しましょう。
確定申告で青色申告を行うためには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出し、個人事業主として承認されなければならないという条件があります。
白色申告
白色申告の場合、家事按分が認められるのは費用の50%以上を事業として使用している場合、または家事按分が必要な経費を明確にしなければならないという条件があります。
また、白色申告は青色申告のような控除などの税金面のメリットを受けることができないというデメリットもあります。
ただし手続きにおいては、青色申告のように届け出をする必要がなく、複式簿記よりも簡易的な方法で記帳ができるため、記帳の手間を省けるというメリットもあります。
まとめ
今回は自宅で副業をする場合の家賃を家事按分する方法や、経費計上の注意点について解説しました。
- 自宅で副業をする場合、家賃は経費にできる
- 家賃以外にも、光熱費や通信費なども経費計上できる
- 家賃や光熱費、通信費などを経費計上する場合は、副業として使用している割合を示すための家事按分が必要
- 家賃を家事按分する際は、総面積から使用面積を割り出し、家賃と掛けることで経費額を求められる
- カフェやコワーキングスペースの利用料金や飲食代なども、使用目的によって一部を経費にできる場合がある
- 持ち家の場合でも固定資産税や損害保険料などを経費にできるが、住宅ローンの返済金額は経費にすることはできない
- 副業中に使うものであっても、衣服代や食事代など経費にできないものもあるので注意する
- 必要経費を差し引いて年間の所得が20万円以下だった場合は確定申告は不要
- 確定申告で経費を計上するためには、その証拠となるレシートや領収書などが必要になる
- 副業の「雑所得」は、青色申告では経費計上できないので注意が必要
- 適切な申告でない場合や所得があるにもかかわらず無申告の場合は、税務調査が入る可能性もある
家賃をはじめとする家事関連費は、副業で使用する分のみを計上することが可能です。経費額や家事按分の割合については自分で決定することになりますが、疑われないためにもきちんと証明できるようにしておくことが大切です。